田の草取りが終わり、・・・夏になる頃には稲穂が垂直に伸びて、一斉に白い花が咲きます。やがて青い実となり、徐々に粒が大きく重たくなると、垂直だった稲穂も傾き始めます。
尚、「みのるほど こうべをたれる いなほかな」と言う「句の本意」は、実りの秋を喜んで詠んだものではありません。使い方を誤るとケンカ沙汰になるので注意しましょう。因みに、麦は実っても頭を垂れません。
余談になりますが、米と麦のこの違いについて、ある方はこう解説しています。麦は冬の間に麦踏みをされ、その屈辱感から真っすぐ生き抜く決心をした。一方、米は育つ過程で八十八回も手入れをしてくれた農家の人たちへの感謝を示している。育て方の違いなのでしょうかねぇ・・、人間にも当てはまりますか?・・・。
(余談が過ぎました)さて田んぼが一面黄金色に輝き、稲穂が頭を垂れてくると、ようやく稲刈りの時期となります。実は、稲刈り作業を始める前に、一つ済ませておかなければならない「大きな事前準備」があります。「ハサ」作りです。
今は、コンバインで収穫したコメは、すぐに農協の大乾燥所に運ばれて「機械乾燥」されます。私の頃は、刈り取られた稲は全て、「自然乾燥」でした。その乾燥させる場所を「ハサ場」と呼びました。したがって、稲を刈る前に、稲束を干す「ハサ」を作っておかなければなりません。
「ハサ場」は各農家の直近の田んぼを使います。そこには農道沿いに「たも木」が等間隔に植えられています。その木に、竹竿を横にして「細縄」で括り付けます。上下7〜8段くらいの、言わば稲用の多段式物干竿ですね。細縄(ほそなわ)は「稲わら」で編んだ縄で、予め、農閑期の冬場に作っておきます。小指よりも細い縄ですので、これも農家の子供は作らされたんですよ。太目のものは単純に「縄」と言っていました。これは「縄ない機」と言う専用の機械で作りますが、大人が扱いました。この縄で重い米俵の胴体を縛ります。
さて ハサも完成し、田んぼも黄金色に輝くころ、小学校は1週間の「稲刈り休み」に入ります。稲刈り及び関連作業は数週間にわたりますので、休み1週間では農家にとって本当は足りなかったと思います。
稲を刈る鎌ですが、鎌には大きく3種類あります。稲刈り用には刃の部分が長い、通称「草刈り鎌」及び「稲刈り鎌(ノコギリ鎌)」を使います。もう1種の鎌は刃の長さが短く、普通の畑の「草取り鎌」です。
稲の刈り方ですが、稲株をわしづかみして鎌で切り、持ったまま次の株に重ねて、5〜6株を切ったら、その束を一旦脇に置きます。もう1度5〜6株切り、脇の束に重ねます。それを、藁(わら)数本で縛ります。これを繰り返します。イラストをご覧ください。稲株1株は握ると意外と小さく、子供の手でも3株くらいは握ることが出来ます。この様に束ねられた稲束は、持てるだけ持って、道路端へ運び出されます。そこには牛車(うしぐるま)が待っていて、荷台に積み上げられ、ハサ場へと運ばれます。