7月 皇居周回路の1187、1188 一覧へ戻る
キョウチクトウ(夾竹桃) サルスベリ(百日紅) アベリア
 (スイカズラ科ツクバネウツギ属 )

周回路の中で、最も狭くなる「切り通し」部分で、代官町通りが終わり、内堀通りへ出ると、走路の右手、車道沿いの街路樹は、ユリノキになります。 桜田門まで続く半蔵門から先のユリノキは、一段と立派で、その下植えに、アベリアが使われています。

アベリアは、半常緑性の低木で、和名は、ハナゾノツクバネウツギまたは、ハナツクバネウツギですが、周回路で見かける樹名板では、見出しをアベリアとし、和名の説明にハナゾノツクバネウツギを使っています。 学名が、Abelia × grandiflora Rahd.ですから、属名をそのまま使っているわけですが、こうした属名の使われ方は、サルビア、ベゴニアなどほかにも沢山あり、6月の項で採り上げたキンシバイにも、花屋さんの店頭にヒペリカムの名で並んでいる園芸品種があります。
なお、学名の×は、雑種であることを表していて、Abelia chinensis と Abelia uniflora との雑種と考えられています。 日本に入ってきたのは、大正時代だそうです。

春先、濃緑色の細かな葉をつけた細い枝が、盛んに伸び、初夏の訪れと共に、枝の先に、長さ2cmほど、直径1cmほどの、小さな小さな5弁の白い花が、沢山咲き、秋が深まるまで、びっしりついた花が、咲いては散り、咲いては散りを繰り返します。
もっとも、アベリアには、枝の先にだけ花がつくという性質があるため、ユリノキの下植えに使われている株は、手入れが行き届いており、その都度、丸い樹形に剪定される結果、「あまり花をつけていないな」との印象を持たれ勝ちです。

 

ユリノキの下植えの他にも、三宅坂のお濠側を始め、周回路沿いの各所にアベリアが植わっています。 剪定対象外の株は、若い枝を勢いよく伸ばして、その先に、こぼれんばかりに沢山の花をつけます。 樹高は1m前後が普通ですが、大手門手前の花壇のその手前に、2mほどの高さになった古い株が、7〜8mほども連続しています。

ツクバネウツギ属のうち、日本には、ツクバネウツギ、オオツクバネウツギ、コツクバネウツギ、タイワンツクバネウツギ(前掲アベリア・キネンシスの変種)の4種が自生しているのだそうです。 ツクバネウツギには、いくつかの変種があり、変種の間にも連続的な変化が多く見られると言います。
ツクバネウツギの変種の中には、紅花のものもあって、アベリアの数多い品種の中にも、薄紅色の花をつけるものを、見かけることがあります。

代官町通り、キンシバイの花を間近にみる周回路脇の斜面の先、桜並木の下植えになっているアベリアの中に、淡紅色の花をつける株や、白花ですが、葉に黄緑色の斑の入った品種が混じっています。

属名のAbeliaは、中国を訪れた医者で、植物学者であった19世紀のイギリス人、Abelに因んだもの、小種名のgrandifloraは、大きい花という意味に取れます。 あんなに小さい花なのに、ツクバネウツギ属の中では、特徴的に「大きい」ということでしょうか。
ツクバネは、花冠のつけ根にある、大きくても長さ8mmほど、赤褐色、5枚のガク裂片とそのすぐ下の部分(痩果と言い、実になるはずの部位)の形を、羽子板で衝く、「衝羽根」に見立てての命名です。 咲き終わった花のあとに、無数の「衝羽根」が残るのですが、雑種であるせいか、アベリア(ハナゾノツクバネウツギ)は、全く結実しません。 後から、後から咲き続けるアベリアの花を見ると、何か哀れに思えて来ますが、挿し木で、簡単に増やせます。
ウツギは、「空木」で、枝が中空だという意味ですが、アジサイ科(従来の分類では、ユキノシタ科)のウツギと違い、スイカズラ科のウツギには、髄があって、中空ではない、ただ、枯れ枝では、髄が水分を失って中空になるため、ウツギと呼んだものであろうと書いてある専門書がありました。 実際には、枯れ枝ばかりでなく、少々大きくなった若い枝を折ってみると、花をつけていながら、結構中空になっているものがあって、我々シロウトは、「ウツギか、なるほど」と、妙に納得できてしまいます。

(註) 主に、朝日新聞社刊 週刊「植物の世界」第10号 1−295頁〜1−297頁および1−318頁〜1−320頁を参考にしました。

              '82年4月入会   佐々 幸夫