サトザクラ(里桜)
ソメイヨシノの花吹雪が続き、若葉が伸び始める頃、大手濠緑地の八重桜が、満開を迎えます。 「緑地」の内部、歩道の車道側沿い、「緑地」から平川門までのお濠端に、開花時期、花の色、蕚筒、蕚片の形、葉の色などの異なる八重桜が混植されていて、遠くから眺める花の趣が、日々少しづつ変わるのを楽しむことが出来ます。
残された少数の樹名板から、ここの八重桜が、いずれも百年前、二百年前、それ
以上も前から親しまれてきたサトザクラの有名4品種であると判ります。
日本の山野に自生するサクラが、9種とか10種とかに分けられるのに対して、江戸時代から特に盛んになった桜の栽培によって、数百にも上る栽培品種が産まれています。
ソメイヨシノがエドヒガンとオオシマザクラの種間雑種だということは、多くの人の知るところですが、オオシマザクラを中心に、他の種との間で複雑な交配の結果生じたと見られる多くの品種があり、これらをまとめてサトザクラと呼んでいます。
中心となっているオオシマザクラは、
多くの桜と同様、花片の先端が凹んでいる。
花の色は白が普通、大輪の一重咲きで、微かに芳香がある。
花の附け根、蕚筒と呼ばれる部分は太く大きく、その上部はくびれていない。
蕚片は長くギザギザがある。
小花柄、蕚筒、蕚片は、無毛。
花期は、ソメイヨシノと同じ頃。
葉は大きく、先が尖っている。
若い葉の色は緑色(ヤマザクラと異なる)。
といった特徴があり、葉を塩漬けにすると、化学変化で独特の芳香を生じます。
桜餅を包むのに使われているのは、オオシマザクラの葉っぱなのです。 |
フゲンゾウ(普賢象) サトザクラ(里桜)の一品種 バラ科
数あるサトザクラの名品の中でも、取分け古くからの栽培品種で、室町時代の15世紀から存在が知られています。
特徴 大輪の八重咲きで、外側の花弁は淡紅色、内側の花弁は、外側よりも白い。
2本の雌しべが長く突き出て、その先が内側に少し曲がっている上、下部は、
緑色の小さな小さな葉となっている。
(命名の由来は、白い花片と、長く曲がった雌しべを普賢菩薩の乗る白象に
見立てたことによる)
若い葉は紫褐色で、葉の縁にギザギザがある。
蕚片(蕚筒の先、花片を裏から支えている部分)にギザギザがある。
花期はイチヨウより晩く、カンザンに比べてもやや晩め。 |
ウコンザクラ(欝金桜) サトザクラ(里桜)の一品種 バラ科
これも有名な品種で、18世紀に京都で栽培されていたという記録があるそうです。 名の示すとおり、欝金色の花に、初見の人はびっくりします。
特徴 大輪の半八重で、花の色は、咲き始めが特に顕著な黄緑色で、日が経つに
連れ、次第に淡紅色が増す。
花期は、4種の中でも、遅い方とされています(桜の開花が極端に
早かった’02年の例では、開花は、イチヨウと同じ頃でした)。 |
イチヨウ(一葉) サトザクラ(里桜)の一品種 バラ科
江戸時代後期、19世紀前半から関東中心に栽培されるようになりました。
特徴 大輪、淡紅色の八重咲き。
1本(ないし2本)のめしべが、葉化して花の中心にあるので、この名が
ある(フゲンゾウと共通した現象)。
若い葉は、鮮やかな緑色(むしろ、この点で、フゲンゾウと区別できる)。
蕚筒は上部(花に近い部分)が膨らんでいる。
蕚片は短く、ギザギザが無い(フゲンゾウと異なる)。
花期は、フゲンゾウより早め。 |
カンザン(関山) サトザクラ(里桜)の一品種 バラ科
江戸時代末期、19世紀後半に作られた品種で、明治初期に植樹され、昭和に
入って消滅した有名な荒川堤の桜並木から、全国に広まったといわれます。
生育が速く、強健で、公園の桜や桜並木として、よく植えられています。
満開の頃、近くで見ると、やや、ぼてぼてとした感じがしますが、欧米人の審美眼
では、高い評価が与えられるようです。
特徴 鮮やかな濃紅色の大輪八重咲き。
雌しべは普通2本で、葉化している。
若い葉は、紫褐色(イチヨウと異なる)で、葉の縁のギザギザは細かい。
蕚片にギザギザが無い(フゲンゾウと異なる)。
花期は、フゲンゾウとほぼ同じ(開花はイチヨウより遅く、フゲンゾウより
やや早め)。
枝振りは、フゲンゾウと異なり、横方向に張り出さない。
以上サトザクラの4品種は、大手濠緑地の周りにあるだけでは、ありません。
千鳥が淵公園にも、英国大使館前の桜並木にも、数多く植えられています。
前回で触れましたが、満開を迎えた和田倉噴水公園の独立樹(フゲンゾウ)は、
実に見事です。
’82年4月入会 佐々 幸夫(68) |